へしこをご存知ですか。
青魚に塩を振って、糠漬けにしたものです。
義母が、若狭地方のお土産に買ってきてくれたことがありました。
「ま、お酒の肴やけどね。」
味見したところ、独特の味と塩辛さで、下戸の私には縁の薄そうな食品でした。でも、お酒好きの夫は食べ慣れた好物だったらしく、とても喜んでいました。
そして、義母は続けて言いました。
「お弁当の隙間に入れるのにもいいよ。」
その言葉に、今度は私が嬉しくなりました。
夫は毎日、私が作った弁当を持って出社します。おかずの半分以上が冷凍食品の手抜き弁当ですが、女の私用のそれとは勝手が違います。
早い話、弁当箱の容量が大きいのです。
弁当作りを始めた頃は、用意したおかずを詰めても、まだ大きな隙間ができて困り果てることばかりでした。今も時々、目算を誤って慌てることがあります。
つまり、私にとって弁当作りの苦労とは、【隙間を埋める】ことなのです。
それが解消されるなんて、なんという僥倖でしょう。
私はすぐに、へしこを弁当に利用しました。
魚だから、タンパク質のおかずですよね。
タンパク質のおかずといえば、メインのおかずと考えてもいいわけです。
ミニトマトが2個入るくらいの隙間や、カボチャの煮物が3個入るくらいの隙間に、どんどんへしこを詰めました。
数日は平穏に過ぎました。
しかし、ある夜のことです。
夫が、珍しく神妙な顔で切り出しました。
「へしこってさ、塩辛くてそんなに量は食べられへんねんけど。」
衝撃の真実が判明した瞬間でした。
つまり、義母が言った【弁当の隙間】とは、お漬物を添える程度、梅干しなら1個分程度の隙間のことだったのです。
毎朝弁当の隙間に悩みすぎて、義母の言葉を自分の良いように解釈してしまったんですね。反省。
ちなみに、最近夫に弁当を作って欲しいと頼まれた時のことです。
「愛がたっぷり詰まった弁当がいいな。」
夫に冗談まじりに言われたので、私はにっこり笑って答えました。
「愛が詰まってるかはわからんけど、隙間はがっちりおかずで詰まってるよ。」
今週のお題「お弁当」